２０１６年９月、葛島にボルダリングができるジムがオープンしました。ボルダリングとは、設置された石をつたいながら壁を登るスポーツで、近年若者を中心に人気が広がっています。また、東京オリンピックの種目にも選ばれたことから、競技人口は今後ますます増えると予想されています。

ジムの名前は「ClimbingGym Allez!（クライミングジム アレ！）」。オーナーは、電気工事業を営むロッククライマーの岩佐さんです。

Allez（アレ）はフランス語で「頑張れ」を意味し、フランス人はクライミング中に落下しそうになった人を「アレ！　アレ！」と声をかけて励ますのだそうです。　クライミングとボルダリングの違いは、クライミングは自然にできた岩場を器具を使って登るスポーツ、一方ボルダリングはクライミングの練習として始められ、一つの確立したジャンルになったものです。ボルダリングがクライミングを始めるきっかけになって欲しいと考え、あえて「クライミングジム」と命名しています。また、ジムの名前には、クライミングをする人たちを応援したいという思いが込められています

岩佐さんは、滋賀県での大学時代、住んでいた場所がたまたま、フリークライマーの奥村晃司氏の経営するジムのすぐそばだったことから、その門戸をたたきました。奥村氏は、ヨーロッパやアメリカの１，０００ｍから４，０００ｍ級の岩場を登った日本でも屈指のクライマーです。登攀の技術はもちろんのこと、体力、気力とも常人離れした奥村氏から、毎日のように技術の指南を受け、どんどんクライミングにのめりこみました。

岩佐さんは19歳の時、アメリカのヨセミテ国立公園に向かいます。ヨセミテには、「エルキャピタン」と呼ばれる、世界最大の一枚岩の花崗岩(高さ約１，０００ｍ)をはじめとして、数々の難易度が高いクライミングコースがあり、世界中のクライマーの聖地と言われています。

ヨセミテの滞在期間は１か月に及びました。エルキャピタン付近の５００ｍから６００ｍのコースを登りきるたびに今まで経験したことのない達成感を覚え、ますますクライミングの世界に引き込まれていきました。「偉大な自然に遊んでもらっている感じが凄い」岩佐さんは、クライミングの魅力をそう表現します。そして20歳、21歳のとき、フランスマルセイユの観光地で国立公園に指定されているカランクへ行きました。それぞれの滞在期間は２か月。ヨセミテもカランクも共にテントでの生活でしたが、喜びに満ち溢れ充実した日々でした。

大学卒業後、京都で働いていた岩佐さんは、８年前に帰高して以来、実家の家業である電気工事の仕事に従事しています。しかし、頭の片隅には「いつか自分のクライミングジムをオープンしたい」という思いがありました。資金を貯めつつ手ごろな物件を探すこと数年。思いがかなってできたのが「ClimbingGym Allez!（クライミングジム アレ！）」です。

競争の激しい都市部に比べ、地方では設備が充実していないジムが多いと言われるなか、当ジムでは、お客様が飽きないよう、毎月ルートセッターにルートの設定を依頼しています。また、初心者には毎週水曜日の無料レッスン、中級者、上級者には、有名なルートセッターによる難易度の高い登り方のレッスンを開催するなど、あらゆるレベルのお客様に満足いただけるようなジムを目指しています。

現在当ジムに登録しているお客様は１０００人を超えています。その中には週３回から４回のペースで練習に来る上級者もいます。技術が一定の水準になると、岩場に行ってクライミングをしたいという気持ちになる方もいます。「時代はボルダリング。ですが、少しでも多くの人を自然の岩場に連れていき、クライミングの楽しさを経験してもらいたいです。岩場は自然の手がかりを見つけながら少しずつ制覇していかなければならないため、登り終えた達成感もひとしおです。クライミングがもっと身近なスポーツになれば嬉しいです。」と岩佐さんは語ります。自身も月に数回は岩に登り、クライミングの技術や体力の維持に努めています。また、いずれ人数が揃えば、岩場に行くツアーを組みたいと思っています。

つい先ごろ「ＮＩＹＯＤＯ ＬＯＶＥＲ」という四国内のボルダリングエリアを紹介したガイドブックが出版されました。クライミング人口の増加が背景と推察されます。

「あまり知られていませんが、高知県には仁淀川や大豊町などクライミングに適した岩場がたくさんあります。県内外のクライマーに高知の岩場を是非知って欲しいです。高知県は豊かな自然が観光客への売りの一つですから、クライミングのスポットを積極的に売り出していくこともできるのではないでしょうか」アメリカやフランスの観光地が同様にスポーツのメッカにもなっている様子を目の当たりにしてきた岩佐さんならではの視点だと思いました。